「年収100万円で足りますか?」——管理職を拒むエンジニアが本当に欲しいものは、お金ではなく「選択肢」だ

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調査では47.5%のエンジニアが管理職を望まないと答えました。一見すると「昇進嫌い」の結果に見えますが、本質は違います。彼らが突き付けているのは、企業の人事評価制度と個人の市場価値戦略のズレ——そしてキャッシュフロー設計の破綻です。転職エージェントとして採用企業側と求職者側の両方を見てきた経験、融資審査で個人の生活基盤を診てきた経験から、この調査の奥底にある「本当の課題」を読み解きます。

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ニュースの要約と背景

キッカケクリエイションが実施した調査で、非管理職ITエンジニアの47.5%が「将来、管理職になりたいと思わない」と回答しました。

管理職を望まない理由の上位は以下の通り:

  • 業務量や責任に対して報酬が見合わない(54.7%)
  • 上司と部下の板挟みストレス(44.8%)
  • 残業代廃止による実質手取り減(29.1%)

一方、管理職へのキャリアシフトを「考えてもよい」条件として、最多は「100万~200万円の年収増」(27.1%)でしたが、同時に「スペシャリスト(IC)コースの整備」(30.8%)や「柔軟な働き方」(38.1%)を重視する回答も目立っています。

プロの視点からの考察

ここからが重要です。この調査が示しているのは、単なる「昇進嫌い」ではなく、企業の人事制度が個人のキャリア戦略と完全にズレている状態です。

転職エージェントとして採用企業と求職者の両方と向き合っていた時期に気づいたことがあります。企業は「管理職になることが出世の証」という旧来の価値観のまま人事評価を設計し、昇進させようとします。しかし市場では、スペシャリストとしての技術力を磨いた人の市場価値が、管理職よりもはるかに高い場合が珍しくありません。特にIT業界では、優秀なエンジニアほど「管理職になること=自分の技術的市場価値を捨てること」と認識しています。

加えて、お金(キャッシュフロー)の現実が見落とされている点が深刻です。融資を担当していた頃、給与が上がった人の家計を見ると、ただ増えた年収だけでなく「手取りの安定性」が生活基盤の判断材料でした。年収が100万円上がっても、残業代が廃止されて月々のキャッシュフローが不安定になれば、実質的には生活が苦しくなる——それは数字以上に家計管理に響きます。エンジニアがこの計算をシビアに行っているのは、むしろ当然です。

では、なぜ企業はこの齟齬に気づかないのか。

私の見立てでは、経営層が「管理職=高給取り」という単純な図式を持っており、その立場からのみ判断しているからです。しかし実際には、優秀なプレイヤーが管理職に転じた瞬間、その人の付加価値は低下し、組織全体の生産性も落ちます。同時に、その人は「技術者としての市場価値」を失い、3年後に転職市場に出たときには「元・エンジニアの元・マネージャー」という、どっちつかずのポジションになってしまう。本来、これが最も大きなリスクであり、エンジニア個人が最も恐れるべき点です。

実務に活かすためのポイント

  1. 自分の市場価値を「昇進を抜きに」定期的に診断する
  2. 毎年1回、転職サイトの適正年収診断や、同業他社のポジション別年収相場を調べて、今のあなたの技術スキルでいくら稼げるかを把握してください(30分)。その数字と現在の年収を比較すれば、昇進以外の選択肢(転職・副業・スキル投資)の判断材料になります。管理職話が出た際、「昇進ではなく、スペシャリストコースで年収いくら保証してくれるのか」という議論ができます。

  1. 家計の「手取りベース」キャッシュフロー表を3ヶ月分、手書きで作る
  2. 給与が上がると聞いても、実際には残業代・各種手当・税率がどう変わるか企業は明示してくれません。人事に「昇進後の手取り月額、賞与、ボーナス月の残業代廃止後の想定支給額」を書面で確認し、現在の月平均手取りと比較してください(1時間)。そこで初めて「本当に損するのか、得するのか」が見えます。

  1. 管理職の「実際の仕事内容」を現職の直属の上司以外に聞く
  2. その企業の同じレベルの管理職に、「実際の月の残業時間、部下対応の時間割合、経営層からの急な指示の頻度」を可能な限り聞いてください(15~20分)。採用面接時の「やりがい」と現場の実態は往々にして異なります。その差分こそが、調査で示された「上司と部下の板挟み」「プレイングマネージャーの過酷さ」の正体です。



キャリアやビジネスの選択肢を広げるために

この調査が浮き彫りにするのは、「昇進という1本道が、もはや最適なキャリア戦略ではない」という現実です。

キャリアの観点からは、次の選択肢を持つべきです:

  • スペシャリストコースの有無を確認し、ない企業なら転職を視野に(市場価値を高める企業環境は希少価値)
  • 副業・フリーランス案件で「本業以外の市場価値」を磨く
  • 社内で「管理職ではなく、高度な技術顧問」というポジション創設を提案する

経済基盤の観点からは:

  • 昇進話が出たら、「昇進による手取りの増減シミュレーション」を必ず書面で取得してから判断する(これを渋る企業は制度設計に自信がない企業)
  • 現在の年収が市場相場より低い場合、昇進で上げるのではなく、まず転職で相場まで戻してから次の選択を考える
  • 管理職に進むなら、その先のキャリアパス(執行役員か退職か)まで想定して決める

企業側も気づき始めるべき時期に来ています。優秀なエンジニアを手放さない最善の方法は「昇進を強要する」ことではなく、「スペシャリストのまま、昇進者と同等以上の報酬と柔軟性を保障する」ことです。それができない組織からは、最初に優秀人材が逃げていきます。




参照元: IT人材「罰ゲームを望むわけない」……じゃあ、年収いくら上がれば「管理職」を引き受ける? エンジニアの本音調査 (ITmedia ビジネスオンライン 最新記事一覧 / 2026-09-01T23:00:00+00:00)

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