採用面接で「子どもの有無」「持病」「発達障害」といった個人情報を聞く面接官は、本質的には何を恐れているのか。転職エージェント時代に見てきたのは、その質問の背後にある「ミスマッチへの不安」と「書類では判断できない生活基盤への疑い」でした。しかし、その質問方法そのものが、採用企業の市場価値を下げ、求職者の本音をさらに隠させる悪循環を生んでいる現実があります。
ニュースの要約と背景
日本財団が発表した調査によると、発達障害や精神疾患の診断を受けながら、一般枠で就職活動をした人の76.5%は、医療機関での診断結果を企業に開示していません。その理由の多くは、開示したことで不採用になった経験、または不採用になることへの懸念です。
記事が指摘する通り、面接官が「聞いてはいけない質問」をするのは、多くの場合、悪意ではなく、「長く働いてもらえるか」「入社後にミスマッチが起きないか」といった採用リスクを軽減したい心理が働いています。しかし、その意図が明確でない、あるいは質問そのものが法的にグレーゾーンである場合、結果的に求職者の信頼を損ない、本当に必要な情報ほど隠されるという逆説が生まれています。
プロの視点からの考察
この問題を深く理解するには、融資審査の視点と採用現場の視点を同時に持つ必要があります。
地方銀行の融資担当時代、私たちが個人の信用度を判定する際、「この人は返済し続けられるのか」を見るために、家族構成、健康状態、ライフイベントの予定などを丁寧に聞き取りました。なぜなら、キャッシュフローとリスク要因は不可分だからです。同じロジックが採用面接官の頭にもあります。「子どもがいると転職や配置転換が難しくなるかもしれない」「持病があると長期休業のリスクがある」——こうした予測は、完全に筋違いではないのです。
しかし、ここが重要なポイントです。銀行は融資という金銭取引の文脈で初めてそうした質問ができました。採用企業にはそうした大義名分がありません。
転職エージェント時代、企業の採用担当者から「健康で、家族に負担をかけられない人がほしい」という要望を何度も聞きました。その背後にあるのは、「完璧な労働力を求めたい」という欲求よりも、「不確実性を排除したい」という欲求だと感じました。しかし、その欲求を満たすために「聞いてはいけない質問」をすれば、逆に一番避けたいことが起きます。——本当の情報が手に入らなくなるのです。
調査結果の76.5%という数字は、その現象を見事に証明しています。企業が知りたいのは、おそらく「この人は3年後も同じポジションにいられるか」という見通しです。しかし、その答えを直接的に引き出す問い方をしないため、求職者は「言わない方が安全」という結論に至ります。
あなたが採用企業の人事なら、ここにキャリア市場価値の損失が生まれていることに気づくべきです。本音を隠す求職者を採用して、入社後に「聞いていた話と違う」と後悔する——これは双方の市場価値を下げます。一方、本音ベースで対話できた企業には、透明性の高い人材が集まり、長期的な定着率も上がります。
実務に活かすためのポイント
採用に関わる立場にいるなら、以下の3つを明日から実行してください。
- 「聞きたい情報」を言語化する(30分)
面接の前に、「なぜその質問をするのか、その答えが採用判定にどう影響するのか」を面接官全員で議論する。「長く働いてほしい」という理由だけなら、その情報は「過去の職務経歴や転職理由」から拾える可能性が高い。グレーゾーンな質問をしている場合、その多くは「実は必須情報ではない」という結論に至ります。
- 代替質問を設計する(20分)
「子どもはいますか?」ではなく「3年後のキャリアビジョンは?」と聞く。「持病はありますか?」ではなく「これまで長く続けられた仕事の条件は何ですか?」と聞く。同じ不安を解消する質問は、法的にも倫理的にも堅牢な形で存在します。その質問に答える過程で、求職者の本当の制約条件が見えます。
- フィードバック環境を整備する(継続)
入社3ヶ月後、6ヶ月後に「採用時の面接で、実は聞きたかったことはこれだったが、聞けなかったことがないか」と求職者に確認する。その情報をもとに、面接質問を改善するサイクルを回す。これは採用プロセスのチューニングであり、企業の採用力を高める最短経路です。
キャリアやビジネスの選択肢を広げるために
求職者の立場にいるあなたは、この現実にどう向き合うべきでしょうか。
キャリア面では、「聞かれそうなグレーゾーン質問への対策」を用意しておくことが重要です。完全に開示する必要はありませんが、「質問されたときに正直に答える準備」は持っておくべき。なぜなら、本音を隠して入社した企業では、3年後の市場価値が上がらないからです。長期的には、あなたの実力を正当に評価できる企業を選ぶ方が、給与や職責の面での選択肢が広がります。
経済基盤の視点では、「今の企業にしがみつく必要がない状態」を作ることが、最強の交渉カードになります。副業やスキル投資で複数の収入源を持てば、「本当のことを言ったら落とされるかも」という恐怖心は減ります。自分の生活基盤が固ければ、企業の圧力に対して冷静に判断できるようになるのです。
採用企業側も求職者側も、本当に必要なのは「完璧な人材」ではなく、「透明性のある関係構築」です。その先にこそ、互いの市場価値が高まる採用が実現します。
参照元: 「持病は?」「子どもは?」 面接官が“聞いてはいけない質問”をする本当の問題 (ITmedia ビジネスオンライン 最新記事一覧 / 2026-09-06T23:00:00+00:00)


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