申請・承認業務のうち、82.9%の部署に今も紙・押印が残っているという調査結果が発表されました。興味深いのは、単なる「デジタル化の遅れ」ではなく、紙を前提とした社内規程そのものが構造的な障害になっているという現実です。この問題は、あなたのキャリアの市場価値と、会社の経済基盤(業務効率・給与原資)に直結しています。
ニュースの要約と背景
NTTデータビジネスブレインズが221人の管理職を対象に行った調査では、申請・承認業務における紙・押印の現状が明らかになりました。主な数字は以下の通りです。
- 紙・押印が「全て電子化済み」は13.9%のみ。82.9%の部署に紙・押印が残存
- 最も押印欄が多い書類の63.1%が3個以上、28.5%が4個以上の押印欄を保有
- 定型申請の26.9%が3人、15.7%が4人以上の承認を必要
- 押印の76.0%が「決裁」ではなく「確認・回覧」目的
- 申請から最終決裁まで平均2〜3日(32.4%)、1週間以上(28.7%)
- 紙・押印が残る最大の理由は「社内規程が紙前提」(38.0%) で、取引先の要求(20.7%)を上回る
プロの視点からの考察
この調査の本質は、単なる「デジタル化の遅れ」ではなく、組織が無自覚に抱え続けている「非効率の負債」を暴露しているということです。
地方銀行で融資の稟議・決裁を見てきた経験からいえば、押印欄が多い申請書類ほど、実は決裁責任者の真の責任は非常に限定的です。ほとんどが「前の人が判子を押したから、確認のため私も押す」という形式的な追認に過ぎません。つまり、3人以上の承認者がいるのに、実質的な責任判定は1人か2人しか行っていないという構造がざらにあります。これは「押印欄を増やすたびに、業務が止まる確率が増す」のと同時に、誰も責任を取らない体制になっているということでもあります。
転職エージェントとして企業の採用面接に同席していた時期に見たのは、社内の承認が遅い企業の人事部長・経営企画室長ほど、提案実行の意思決定が弱いという現象でした。本人たちは「コンプライアンスが厳しいから」と言いますが、実は承認フローが複雑化するたびに、個人の判断責任が曖昧になり、結果として「誰も決定を下した感覚を持たない」という組織文化が形成されるのです。その人たちが転職すると、元々決定能力が低い傾向にあります。つまり、あなたが今いる組織の承認フローの複雑さは、その組織の人材のマーケットバリューそのものを下げているサインでもあります。
さらに実務的には、現在AI導入を自分の業務に組み込んでいるからこそ分かることがあります。AIに置き換えられる業務の筆頭は、この「形式的な確認・回覧目的の承認」です。もし組織がこのままだと、RPA や AI による自動決裁が入った瞬間に、確認・回覧だけを仕事にしている人材の存在意義が失われます。一方、本来の「責任ある決裁判定」を行える人材は、むしろAIツールで煩雑な確認作業を削除することで、より戦略的な判断に集中できるようになり、市場価値が上がります。
調査結果から見えるのは、紙を前提とした社内規程が、組織全体の意思決定スピードと個人の市場価値を同時に蝕んでいるという現実です。
実務に活かすためのポイント
- 自分の部門の承認フローを「決裁」と「確認・回覧」に分け、1週間以内に一覧表を作る
- Excelで「申請名」「現在の承認者数」「このうち何人が実質的に責任ある決裁か」を列挙する。これだけで、削減できる承認者が見える。所属長に提出し、「これらの確認・回覧承認者は削除できないか」と問う。
- 今のあなたの日々の承認・押印業務を1週間トラッキングし、「この判断は私が下したのか、形式的な追認か」を分類する
- 紙で記録し、形式的な確認・回覧の比率を計算する。70%以上が形式的ならば、その業務は将来AI化される高リスク領域です。自分の市場価値を上げるため、この業務を減らし、より責任ある判定業務にシフトする提案を上司にしておく。
- 社内システムの承認機能の不足を見積もり、外部ワークフローツール(SaaSサービス)のトライアル導入を企画提案する
- 「既存承認システムが自社フローに対応できない」が17.3%の理由なら、そこは改善の余地がある。ツール1〜2つをリストアップし、1ヶ月のトライアル期間を設定してから経営層に稟議を上げる。実装に関わることで、あなたはその組織の「プロセス改善人材」としてのブランドが立つ。
キャリアやビジネスの選択肢を広げるために
この問題は、あなたのキャリアの分岐点になります。
キャリア面では、今後AI導入やプロセス改善の話が組織内で出てきた時、「形式的な確認・回覧を削除し、責任ある決裁だけを残す」という提案ができる人材になることです。現場の痛みをリアルに理解している人間の提案は、経営層にも受け入れやすい。その過程で、あなたは単なる「その部門の担当者」から、組織全体のプロセス改善を推進する人材への昇進や転職が現実的になります。
経済基盤面では、今の会社の承認フローが改善されない場合、その会社の給与原資生成能力は劣化し続けます。決裁が1週間かかる環境では、営業案件の機会損失、プロジェクト完了の遅延、人員の多投入が常態化し、最終的に利益が圧迫されます。3年後、その会社の経営状態は今より悪くなる可能性が高い。その時点で転職市場に出ても、あなたの市場価値は「非効率な組織にいた人」として評価されるリスクがあります。だからこそ、今この問題を自分の成長機会に変えるか、さっさと改革が進んでいる別の組織へ移るかの二択を、今年中に決めておく方が無難です。
参照元: いまだ残る紙書類への押印–約3割が「社内規程や様式が紙を前提にしている」 (ZDNet Japan 最新情報 総合 / 2026-09-03T06:57:00+00:00)


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